正しい方法で節税できていますか? 節税をするかしないかで年間の支出に10万円以上の差が出ることがあります。しかし、一見節税できているように思えても、さほど税金が下がらず、かえって手元のお金がなくなるケースが少なくありません。今回は、誤った節税方法でお金が無くなってしまわないよう、節税対策の基本をお伝えします。
こちらの内容はYouTube動画でも説明していますので、よろしければあわせてご覧ください
サラリーマンの経費VS個人事業主の経費
節税対策として、おそらく最初に思い浮かぶのが「経費を増やす」というものです。ただ、この「経費」という言葉が勘違いを呼んでいる面が否めません。
サラリーマンにとっての経費とフリーランスや個人事業主にとっての経費は、まったく意味が違います。
サラリーマンの経費は、「会社で精算できる支払い」を意味します。したがって、たとえば取引先の接待のために贈答品を買ったとしても、きちんと会社で手続きをすれば全額が戻ってきます。手元のお金が減ることはありません。
一方、フリーランスの経費は、税法上の「必要経費」のことです。必要経費は確定申告の時に所得を押し下げるので、節税効果はあります。ただ、サラリーマンの経費のように全額が戻ってくることはありません。フリーランスは経費を使えば使うほど税金は下がりますが、手元のお金も減っていくということです。
節税の公式
フリーランスが節税対策を行うときは、そもそも節税が何なのかを理解する必要があります。そして、その効果を測定するためには、3つの計算式がポイントになります。
節税とは
時々、「節税はずるい」「節税のことを考えるのは面倒」といったネガティブな声が聞こえてきますが、私は違った考えをもっています。そもそも、節税は悪いことではありません。実は、僕が東京国税局の職員に採用され最初の研修で教わったのが、このことでした。
節税とは、「税法をはじめとするルールにのっとって、合法的に税金を減らすこと」を意味します。たとえば必要経費をきちんと計上して、税額を節約するようなケースですね。iDeCoやNISA、住宅ローン減税も、手続きをすることで税金が減りますから、やはり節税です。
所得計算
節税が合法的であることを理解したら、その効果を検証しましょう。そのためには、まずは税金を計算するための流れを知ることが大切です。最初に覚えておきたいのが、次の算式です。
収入(売上)-必要経費=所得
ここで「必要経費」が出てきましたね。税金の基準となるのは所得です。節税の基本は所得を減らすことにあるため、必要経費を増やすことで節税できます。売上に対する必要経費を増やし利益を減らせば、税金が少なくなるということです。
税金計算
次はこの算式です。
所得×税率=税金
実際にはもう少し細かい計算があるのですが、この算式からイメージをつかんでください。所得税の税率は所得の金額に応じて決まります。なので基本的には僕たち個人が取れる対策はありません。ただ、前述のように所得は必要経費を増やすことで調整できますよね。
節税効果
そして最後の算式です。
節税効果=減った所得(増えた必要経費)×税率
必要経費を増やすと所得が減ることは分かりますね。ただ、必要経費が増えたことでいくら節税できたかは、増えた必要経費の額に税率を掛け算をしないと分かりません。
所得税は所得に応じて5%〜45%、それにプラスして2.1%の復興特別所得税がかかります。住民税は基本的に10%です。平均的な所得であれば、トータルの税率はざっくり30%くらいと考えておけばよいでしょう。
ということは、税率が30%として必要経費を10万円増やした場合、10万円×30%=3万円分の税金が減るという計算です。
では、これは「3万円得した」と言えるのでしょうか? そうは言いきれません。なぜなら、3万円の節税効果を得るために、10万円の経費を増やしているからです。実質的に7万円を負担したことになるので、むしろ損をしているといえるでしょう。
ちなみに、赤字の場合はそもそも税金がゼロなので、必要経費を増やしてもまったく節税効果はありません。青色申告にすると損失の繰越ができますが、近い将来に大きな利益が出ることが明らかでなければ、赤字の状態で経費を増やすことはお勧めできません。
経費で物を買う時の考え方
これを踏まえて、必要経費を増やすことを目的に物を買う時の考え方をお伝えしていきます。
まずは税法上の必要経費がどういうものかを知っておく必要があります。その支出が必要経費と認められなければ税金も下がらないし、手元のお金もなくなっていくので丸損だからです。
条件1 仕事の収入を得るためにかかった費用
国税庁のホームページを見ると、必要経費に算入できる金額として次の2つが挙げられています。
- 総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
- その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
わかりにくい說明ですが、ざっくり説明すると、「仕事の収入を得るためにかかった費用」という意味です。まずは「何か仕事に関係ありそうかな?」と考えて、ここから次の条件に当てはめていきましょう。
条件2 売上に貢献しているか?
次に、売上に貢献しているかどうか。何かを購入するからには、それが仕事の役に立って売上が増えることを期待しますよね。もしくは、売上が減らないように支払うケースもあるでしょう。
説明したように、税率30%の場合なら10万円のものを買った時には3万円の節税効果があって、残りの7万円は自己負担です。ということは、「この支出で利益が7万円以上増えそう」と思えば買う、そうでなければ無駄遣いになるので買わない、という選択をするのが合理的です。
条件3 本業の目的と一致しているか?
本業の目的と一致しているかもポイントです。僕はライターなので、ライティングに使うパソコンやメモをするペンは問題なく経費に入れられます。でも、たとえば料理に使うフライパンを買ったとしても、基本的には必要経費になりません。これは想像できますよね。
ただし、僕がフライパンの記事を書く依頼のために購入したのであれば、取材費という名目で必要経費に入れられるでしょう。このような場合、後から税務署から聞かれたときのために、公開した記事の記録を残しておくと安心です。
条件4 一般的に妥当と思われる金額か?
最後に一般的に妥当な金額かどうかです。
たとえば取引先の接待で1万円くらいならわかるけど、100万円は高すぎると感じますよね。こういった「多くの人がこう思うだろう」という感覚に照らして、払いすぎていないかも考えます。
これらの条件にすべて当てはまれば、基本的には必要経費に該当するし、費用対効果もあると言えるでしょう。ここまで確認したうえで物を買うようにしていけば、資金繰りの心配も減るのではないでしょうか。
「経費で節税できる」いう考えが、節税貧乏のもと
必要経費を使う時に考えるべきポイントをお伝えしてきました。このポイントを理解しないでいると、必ず「節税貧乏」に陥ります。
繰り返しますが、フリーランスの必要経費は支払った全額が戻ってくるわけではありません。節税できれば、出ていくお金は減っていきますが、それでも必ず自分が負担するお金は発生します。
自己負担額を気にしていないと、それに見合ったリターンがあるのか検証できません。ですから、無駄遣いにつながる可能性があるのです。
そうは言いながら、僕自身も完璧にできているわけではありません。誰しも無駄遣いをしてしまうことはありますよね。僕も本に関しては「いつか役立つはず」と思って買い込んでいますが、ちょっと買いすぎな面があるので、少し控えたいと思っています。
正しい節税テクニックを
フリーランスは長く続けることが大事です。そのためにも早い段階からお金の使い方を考えておくことをおすすめします。
会社員の方と違ってフリーランスの収入は急に増えることがあり、無駄遣いをしてしまう可能性が高いです。そんな時に、節税効果だけでなく自己負担額や支払いに見合ったリターンが得られるのかを考えれば、無駄にお金を使ってしまうことはないでしょう。
そうして残ったお金は、自分が本当に大事だと思うことに使えたらいいなと思います。別に、必要経費にならなくても、人生にとって意味のある出費なら構わないですよね。
ということで、今回は主にフリーランスや個人事業主の方向けに節税の話をしました。細かい節税テクニックについては、ぜひ僕の新刊「イラスト図解 節税の全ワザ」(きずな出版)を参考にしてください。一般の方が使える節税制度にはどのようなものがあるのかを知っていただくために、不動産や相続などテーマを絞らず幅広く紹介した本です。興味のある方はお読みいただけたら嬉しいです。
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※本記事は執筆時点の情報に基づき掲載しています。制度のルールなどが変わる可能性がありますので、最新の情報をご確認ください。
[参考リンク]
・節税はズルくない理由〜脱税はダメ!〜
・開業したらすぐ使いたい節税5選
・節税機会を逃さない!ややこしすぎる年末調整の書き方