事業を法人と個人にわけることで、節税や社会保険料の節約につながります。しかし、問題も少なくありません。今回は、法人事業と個人事業の両立をやめ、法人に一本化した理由について、お伝えします。
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法人事業と個人事業を併用するメリット
デメリットの話の前に、メリットの方からお話します。僕は法人化することで、これらのメリットを享受しました。
マイクロ法人スキームとは
サラリーマンや個人事業主が法人を作ることで、税金や社会保険の節約につながります。このメリットを最大化するためのポイントが、「売上を低く抑える」ということ。このように売上の小さな法人を作って節税などを行うことを「マイクロ法人スキーム」といいます。
マイクロ法人スキームは、売上を低く抑えるのがセオリーなので、必然的に一人社長や家族経営の会社になります。僕も2018年8月に法人化していますが、社員は僕と妻だけです。従業員を多く抱える会社では、マイクロ法人スキームを使うのは難しいでしょう。
社会保険料が節約できる理由
個人事業の場合、国民健康保険料は扶養する人数によって高くなります。また、自分の所得に対してそのまま保険料がかかってきます。ある程度の利益を出せている事業者であれば、保険料の負担がかなり厳しくなるはずです。
法人を設立すると、社会保険料は役員報酬に応じて計算され、家族の人数は関係ありません。しかも役員報酬は自分で自由に設定でできます。報酬金額を低く設定しておけば、それだけで保険料の負担を抑えられるのです。
節税できる理由
法人と個人の事業を分けると、控除額の最大化を図れます。法人事業では、会社から役員報酬を受け取ります。この報酬は給与所得控除の対象です。そして個人事業の方は、青色申告にしていれば青色申告特別控除が受けられます。これはあくまで一例ですが、マイクロ法人スキームを使えば、控除のいいとこ取りができるのです。
実はこのような方法を、税理士さんがよく使っています。申告書の作成業務などの税理士業は個人事業、その他コンサルティングとか教材販売などは法人で行うといった感じです。税理士さんクラスの収入になると、保険料の負担は大きいので、マイクロ法人スキームを使うのも納得できます。
両立の難しさ。個人事業で安定的な稼ぎが必要
僕の場合、自著の印税は個人事業に、それ以外のライティング報酬は法人事業、という形で分けてきました。ただ、3年ほど続けてみて、マイクロ法人スキームの難しさを感じています。
生活費が足りなくなる
悩ましいのが役員報酬の設定です。説明したように、社会保険料を低く抑えるためには役員報酬を低く設定しなければいけません。僕の場合、会社から受け取る報酬は10万円ほどに設定していました。
ただ、10万円で生活するのは厳しいですよね。だから、役員報酬以外の収入、つまり個人事業である程度の稼ぎが必要です。ところが僕の場合、個人事業の柱である本の印税は不安定です。本を書いてから収入を得るまで数年かかることもあり、販売部数によって収入が全く変わってくるからです。
個人事業の収入が少ない月は、生活費がどうしても足りなくなってしまいます。かといって役員報酬を上げるわけにはいきません。役員報酬は毎年1回決めるもので、いきなり変えると経費にできなくなるからです。
税務上のリスク
生活費が不足する時は、緊急措置として会社からお金を借りることは可能です。
ただ、こうしたお金の貸し借りをあまり頻繁に行っていると、税務署から疑われてしまうかもしれません。可能性として、会社からの借金が、「実質的には役員報酬である」と判断されるおそれがあります。もし役員報酬と判断されたら、これに対して税金や社会保険料がかかってしまいます。
この問題の対策としては、まず事業の区分けを明確に文書に残しておくことが大切です。定款に明確に書ければそれが一番ですが、家族経営の法人なら取締役会議事録で文書化してもいいでしょう。
次に、会社と個人の間でお金をやり取りするときは、金額とともに理由も残しておくことが大切です。そのお金が賃借であり、役員報酬ではないと示すためです。そして、会社からお金を借りたのあれば、いずれ返すようにしましょう。これを怠ると、後で税務署から指摘を受ける可能性があります。
融資の審査が通りにくい
マイクロ法人スキームには、銀行からの融資の審査が通りにくいというデメリットもあります。法人として融資を受けようとすると、銀行は会社の帳簿だけをチェックします。たとえ社長が個人事業で稼いでいても、そのことは基本的には考慮されません。
事業が法人と個人にわかれていることで、当然法人の売上は少なくなります。でも、融資の審査で見られるのは法人の帳簿のみ。ということは法人に一本化していた場合より、稼ぎが少なく見えてしまいますよね。信用度が下がって、借りられる金額や金利など条件の面で不利になってしまうのです。
帳簿や申告書を2つ作る手間
個人事業と法人事業を両方やるからには、それぞれに帳簿が必要です。当然、申告書も別々ですから手間がかかります。しかも法人の申告書は難しいので、税理士に作成をお願いすることになるでしょう。社会保険関係の手続きは社会保険労務士に依頼する必要があるかもしれません。
税金や社会保険料の節約のために法人を設立しても、税理士や社労士報酬のことを考えると、むしろ損をする可能性があります。
将来の年金のリスク
最後に挙げるのが年金です。社会保険料の節約が、個人と法人の事業を両立させるメリットだと説明しました。でも、これって実は将来もらえる年金を自ら減らしていることでもあります。
会社をつくると、厚生年金がもらえるようになります。この厚生年金は、標準報酬という役員報酬の金額に応じて決まるのです。つまり役員報酬が少ないなら、年金も少なくなります。当然と言えば当然ですが、保険料をたくさん納めた人の方が後で年金を多く受け取る仕組みなのです。
法人事業と個人事業を併用して社会保険料を低く抑えている人は、年金が少なくなることを覚悟しておかなくてはいけません。さらに障害年金や遺族年金にも影響しますので、そちらも考慮しておきましょう。
まとめ。法人事業か個人事業かは状況次第
ここまでお伝えしてきた点を踏まえて、僕は事業を法人に一本化することにしました。これまで個人事業としていたものを、法人として取り組んでいくことを決め、文書に残しました。そして自分の役員報酬の金額を上げたので、社会保険料は増えてしまいました。これは、将来の厚生年金に繋がると考えて我慢することにします。
なお、僕は法人と個人事業の併用をやめましたが、マイクロ法人スキームを否定しているのではありません。特に収入が少ない開業当初に、社会保険料をおさえるメリットは大きいです。自分の経験からもそう思います。ただ、事業を大きくするために融資を受けるとか、老後の年金を手厚くしたいと考えるなら、いずれは事業を一本化した方がよいかもしれません。
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※本記事は執筆時点の情報に基づき掲載しています。制度のルールなどが変わる可能性がありますので、最新の情報をご確認ください
【参考リンク】
・【法人化のメリット】給与所得控除による節税効果をシミュレーション
・【法人成り】個人事業から法人化するベストタイミングは?