こんにちは、よしこばです。
少し前になりますが2021年6月30日のニュースで、東京の麻布税務署がウーバーイーツジャパン(以下Uber)に対して情報提供依頼をした、という報道が出ました。
今回の記事では、この情報提供依頼は税務調査と何が違うのか、今後Uberの配達員の方に対して、税務署はどうアプローチしていくのか。また、配達員の方はどう対応すればよいかについて解説していきます。
こちらの内容はYouTube動画でも説明していますので、よろしければあわせてご覧ください。
国税局がUberに情報提供を求めた
まず報道された内容を振り返ります。東京国税局がUberに対して、配達員の報酬などの情報提供を求めたということでした。
報道によるとUberの配達員の数は全国で10万人ほど。その方たちは基本的にUberの社員ではなく、それぞれ個人事業主としてUberと契約して仕事をしています。ですので、一定の所得を超えると確定申告が必要になるんですね。
しかし正しく確定申告をしていない人が相当数いるのではないか、ということで東京国税局が目をつけて、配達員の住所、氏名、2019年の取引額、銀行口座などの情報提供を依頼したということです。
さらに報道を見てみると、Uberは配達員との契約の際に、報酬額によっては確定申告の義務があると説明しているほか、申告の時期にはメールで啓発動画を案内するなどの対策を実施しているそうです。
このようなUberの取り組みを見ると、基本的に国税局に対して協力的な会社ではないかなと思います。ですから、基本的には国税の求めに応じて情報を提供したものと考えられます。
情報提供依頼は税務調査ではない
今回の報道では「情報提供依頼」という言葉が使われています。「税務調査」ではない点に着目してください。Uberは税務調査を受けたのではなくて、情報提供依頼という、あくまでお願いをされたということです。
このような情報提供依頼がされる理由は、税務調査では調べられない領域があるからです。実は、こういった情報提供依頼が行われるケースはあまり表に出ませんが、Uberの他にもたくさん行われています。
供依頼は税務調査ではありません。
税務調査の対象になる人とは?
ここで税務調査のルールを見ておきましょう。税務調査については、国税通則法という法律に定められています。
所得税の場合であれば、国税庁や国税局、税務署の職員が、税務調査が必要だと考える時には調査対象者に質問をしたり、書類を出してもらったりします。これは法律で認められた権利です。
問題はこの「調査対象者」です。調査対象者となるのは、基本的には「納税義務者」や「納税義務があると認められる者」です。さらには税務署に対して法定調書などの書類を出す義務のある者や、納税義務者などと取引のある者も調査対象者に含まれます。。
簡単に言えば、税務調査の対象となるのは、「納税義務がある人」「納税義務があると思われる人」「それらの人と取引がある人」ということです。
納税義務があるか分からない人に税務調査はできない
ここで問題になるのは、何をもって納税義務があると言えるのか、つまり税務調査の対象であると判断できるのかということです。
例えば確定申告に間違いがあった場合や、何らかの情報に基づいて明らかに納税義務があるのに申告していない、という場合は税務調査の対象となります。
ですが、こういう状況にない人に対する税務調査はできません。Uberの配達員も、人によって収入はそれぞれなので、納税義務があるとは言い切れない。となると、Uberで仕事をしているからといって、すぐに税務調査に移ることは難しいのです。
そこで、今回東京国税局は、納税義務があるか判断するのに必要な情報を得るために、Uberに対して情報提供依頼をしたと解釈されます。
機動官という特殊職の存在
次に国税局側でこの情報提供依頼をした職員が、どのような存在なのかをお話しします。
国税局には情報提供依頼をする専門の部署があり、実は僕もそこで仕事をしていたことがあります。特定の税務署に所属せずに、隠密的に動く「機動官」という役職です。
機動官が情報提供依頼に動く理由は、「税務署の職員は管轄の納税者の調査しかできない」というルールにあります。例えば渋谷税務署の職員が、新宿に住んでいる人について調査することはできません。ですから、特別に機動官という役職に複数の税務署の権限を与えることで、エリアを超えた調査ができるようにしています。
ちなみに僕は東京都区内の資産税担当の機動官でした。その時には、東京23区にある全ての税務署の納税者に対して、所得税や相続税の調査ができる権限を与えられていました。
また、機動官は情報提供を依頼するだけではなくて、実際に調査に行くこともあります。例えば、情報収集をしてみたら、麻布税務署管轄の人の間違いがある、渋谷管轄の人にも間違いがある、新宿管轄の人にも間違いがある、となった場合に、機動官なら自ら調査に行くことができるのです。
もしくは機動官だけでは調査しきれない時、今回のUberの案件もそうだと思いますが、そのような場合は、各税務署に情報を流してその税務署の人に調査をしてもらいます。
Uber配達員に対する税務署のアプローチ
今回の報道では、国税局からUberに、配達員の方の住所や収入などの情報提供依頼が行われたところまでは分かっています。今後については、僕の予想が入っているのですが、本格的な税務調査が行われると思います。
まず、機動官が直接、Uberの配達員に対して税務調査を行うでしょう。ただし、これはサンプル調査です。このサンプル調査を経て、Uberから入手した情報を機動官から各税務署に流します。
その後、情報提供を受けた税務署の職員は、あらためて精査して税務調査すべきかを判断します。そして必要と判断すれば、税務調査に移っていきます。
8月下旬から調査が本格化
次にスケジュールの点から考えてみます。
この報道があったのが2021年6月30日でした。税務署の職員の人事異動は例年7月10日ですので、異動前の6月末ギリギリに情報提供依頼まで終えて、その結果は新たな体制に引き継がれているはずです。
そして、お盆が明けた頃から税務調査が一般的に本格化していくので、Uberの配達員の人にも、順次アプローチしていくと考えられます。
税務署から連絡が来る前に動くべき
税務調査が行われる前には必ず通知することになっているので、いきなり訪問されることはありません。通常は電話や文書で税務署から連絡がなされます。
しかし、そうした連絡を待つ必要はありません。もしこの記事を読んでいる方の中に、確定申告をしていなかったなど、思い当たる方がいれば早めに”自ら”申告することをお勧めします。
実は、期限後に確定申告をしたり、修正申告をしたりするとき、自分から申告したか、税務調査を経て申告したかによって追徴税が変わってくるからです。場合によっては、自主的に申告をすれば追徴税を免れることもあります。
悪気はなくても追徴税が発生し、税務署に記録が残る
まったく悪気はなく、確定申告が必要だと知らなかっただけでも、税務調査の対象となり、追徴税まで支払うことになるかもしれません。そしてその記録は税務署に残っていきます。それも、数十年にわたって。となると、その後の監視も厳しくなるのは明らかです。
不安がある方は、まずはお住いの地区の税務署に相談するのが一番だと思います。
ということで今回の記事は以上になります。税務調査については、以前に書いた記事もあわせてお読み頂ければと思います。
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※本記事は執筆時点の情報に基づき掲載しています。制度のルールなどが変わる可能性がありますので、最新の情報をご確認ください。
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