こんにちは、よしこばです。
今日は個人事業の開業に関する記事です。
これまで、様々なフリーランスの方とお付き合いをする中で、開業届を出していないという人を何人も見てきました。話を聞くと、開業手続きをすると税金が増えて、面倒なことになるというイメージがあるようです。
でも、これははっきり言って間違いです。
きちんと開業届を出さないと、最終的には税金や社会保険料を多く支払うことになってしまいます。さらに、いざというときに国や自治体による事業者支援を受けられなくなってしまうので、いざというときに困ります。
本記事で開業届を出すメリットをしっかり理解して、きちんと手続きを進めるようにしましょう。
開業届を出す効果
開業手続きのなかで、まず基本となるのが、「税務署に開業届を出す」というものです。実際の書面の名称は、「所得税の開業・廃業届出書」というもので、開業だけではなく廃業のときにも使うものですが、本記事では省略して「開業届」と呼んでいます。
それでは、なぜ税務署に開業届を出す必要があるのでしょうか? それは、開業届を出すことによって、「事業所得」として確定申告ができ、「青色申告」などの節税メリットを受けられるからです。「青色申告」という言葉については後ほど説明しますが、まずは「事業所得」について理解しましょう。
日本の税制では、「所得の種類」が税額に大きく影響するしくみになっています。
たとえば、同じように年間200万円の収入があった人でも、その200万円が会社からサラリーとしてもらったものなのか、事業で稼いだものなのか、はたまた投資で得たものなのか、といった理由によって、税額は大きく異なるということです。ちなみに日本の税法では11種類の所得があります。
そして、フリーランスの方など、給料ではなく仕事の報酬を得ている場合、「事業所得」もしくは「雑所得」のいずれかで確定申告をすることになります。
事業所得というのは、その名のとおり、「事業で得た所得」です。個人事業で生計を立てているような人はこちらですね。一方、雑所得というのは、他のどの所得にも当てはまらない「その他の所得」です。これを個人でビジネスをしている人に当てはめると、本業で事業をしていれば事業所得、副業レベルなら雑所得ということになります。
実際は。事業所得と雑所得の判断は難しい要素が絡んでいるのですが、フリーランスや個人事業ですでに生計を立てている人は、事業所得がふさわしいと考えていいでしょう。
ここで開業届の話に戻ります。なぜ、税務署に開業届を出さなくてはいけないと思いますか? それは、税務署が「本業か副業か」なんていちいち確認することはできないからです。一人一人の話を聞いて「あなたは事業所得だから、開業届を出してください」なんて案内をすることはありません。
あくまで税務署は、本人の申請、つまり「開業届が出ているか」によって事業所得か雑所得かを判断することになります。
つまり、税務署の職員の視点から考えると、
開業届を出している⇒事業所得がある人
開業届を出していない⇒事業所得がない人(雑所得)
ということになります。
そして、税金の扱いからすると、事業所得のほうが、雑所得よりも有利となる可能性が高いです。その理由は後ほど解説しますが、たとえば、事業所得では認められている「赤字の繰越」「青色申告」といった節税に効果のある方法を、雑所得では使うことができません。
話をまとめましょう。節税メリットを得るためには、まずは開業届を提出し、税務署に対して「事業所得がある」ということを宣言する必要があります。この点はしっかり頭に入れておいてください。
開業届を出さない場合のペナルティ
前回、個人事業主でも、開業届を出していない人がいるとお話をしました。こういう人には何かペナルティがあるのでしょうか?
結論から申し上げると、税務署に開業届を出さなかったとしても罰則はありません。「事業の開始等の事実があった日から1月以内」という提出期限が設けられてはいますが、期限から遅れても罰金などはないです。
ただ、前に説明したとおり、開業届を出すことは、基本的に出した人にとって有利にはたらきます。ですから、開業届を出さないということは、メリットを自ら捨てるのと同じです。
具体的なペナルティがないということもあり、税務署から「開業届を出してください」といった案内が来ることはありません。
元職員の私が言うのも何ですが、税務署から連絡があるのは、「納税が不足しているとき」「提出書類に明らかな誤りがあるとき」「納税者からの質問に答えるとき」が基本です。なので、こちらから何もアクションを起こさないのに、「あなたはこうしたほうが得ですよ」という案内が来ることは期待できません。
ぜひ、損をしないためにも、きちんと開業手続きを進めていきましょう。次回は、事業所得にするメリットについて具体的に説明していきます。
事業所得のメリット1(青色申告にできる)
事業所得のメリットとして最初に紹介するのが、青色申告について。ただ、青色申告のメリットは複数存在するので、こちらは別記事でしっかり説明したいと思います。
青色申告にするメリットはとても大きく、僕自身、開業と同時に青色申告の手続きをしました。
試しに私が独立した2017年分の申告内容を調べると、青色申告にしたことで、約20万円の所得税・住民税を節約できていました。ちなみに僕が開業したのは2017年7月なので、これは半年分の節税効果です。1年分になおすとさらに節税効果が大きかったことになります。
しかも、青色申告の節税効果は1年限りではありません。基本的に毎年のことなので、積もり積もれば非常に大きな節約につながります。さらには税金だけでなく、国民健康保険料の節約にもつながります。
青色申告にできるのは、11種類ある所得のうち、事業所得・農業所得・不動産所得のある人に限られています。雑所得では青色申告にすることはできないので、これだけでも開業届を出す意味はあると思います。
事業所得の節税メリット2(赤字を活用できる)
2つ目のメリットは、「赤字を活用できる」という点です。
事業を始めるときから赤字になることなんて考えたくないかもしれませんが、起きる可能性はゼロではありません。
とくに飲食業のように初期投資が大きな事業であれば、最初は赤字というのが一般的ですし、他の事業でも、新型コロナウイルス感染症のような問題で赤字に陥ることが考えられます。
私のようなフリーライターの場合、比較的赤字リスクは少ないですが、それでも体調を崩して長期入院をしたりすると、赤字になることはあるでしょう。
そうした場合に、事業所得の「損益通算」という制度を利用することができます。損益通算とは、ある所得で出た赤字を、他の所得と合算できるというものです。
たとえば、給料の所得(給与所得)が500万円あって、事業所得で100万円の赤字が出たら、これを合算して500万−100万=400万を基準に税金を計算できるということです。
一方、雑所得の場合、赤字を損益通算することができません、雑所得で100万円赤字のある人が、給与所得500万円あったとしましょう。このとき、給与所得500万円は普通に課税されるということです。
手元に残っているお金は400万円なのに、税金は500万円を基に計算されるわけですから、厳しいですよね。
事業所得のメリット3(開業費を計上できる)
最後のメリットは、「開業費を計上できる」というものです。また初めての言葉ですね。少し難しい話なので、ゆっくり説明したいと思います。
開業費とは、法律では「事業を開始するまでの間に、開業準備のために特別に支出する費用」と定められています。簡単にいえば、「開業準備費用」ということですね。たとえば次のような費用が開業費として考えられます。
・名刺の作成費用
・店舗の設計費
・パソコンの購入費
このような費用は、まとめて「開業費」という扱いになり、事業所得を計算するときに差し引くことができます。 そして、ここが重要なポイントなのですが、開業費は、いつでも差し引けるというルールになっています。つまり、今年の所得から引いても、来年の所得から引いても、さらに将来の所得から引いても大丈夫です。
これが何を意味するのかが分かりにくいと思いますので、順番に説明しますね。
本来、必要経費は、次の3パターンで計上されます。
1 商品の仕入代金⇒商品が売れた年に計上
2 10万円以上のものを購入⇒数年に分けて計上
3 その他(消耗品費・交通費など)⇒支払った年に計上
このうち、3について、開業前に支払ったのであれば、開業費という扱いになります。そして、その費用はいつ使っても構いません。これが節税につながります。
たとえば、名刺の作成費用をイメージしてください、開業日より前であれば「開業費」、開業日より後であれば「消耗品費」となります。
消耗品費の場合、支払った年の必要経費として処理をしなくてはなりません。つまり、2020年に支払ったのなら2020年分の確定申告で、2021年に支払ったのであれば2021年分の確定申告で計上するということです。
でも、開業費になれば、2020年の費用にしても、2021年の費用にしても構いません。
「いつでも必要経費にできる」ということが、なぜ節税につながるのでしょうか? それは所得税の税率表を見ると理解できます。
日本の所得税は、所得が高くなればなるほど、税率が上がる仕組みになっています。ということは、たとえば同じ金額の必要経費を使うにしても、税率が高いときに使ったほうが節税効果は高いですよね。
極端な話、100万円の必要経費があるとして、最低税率の5%であれば節税効果は5万円、最高税率の45%なら節税効果は45万円です。
また、赤字のときは、いくら必要経費を増やしたところで税金には影響しません。赤字なら税金はゼロというだけなので、それ以上下げようがないですよね。
だから、開業をするときにできるだけ開業費を貯めておいて、後で所得が高くなったタイミングで費用にして、節税をすることができるというわけです。
この開業費を計上するには、開業をしなくてはならないわけで、そのためには開業届を出す必要があります。
開業手続きをするメリット4(事業者支援制度を受けられる)
開業届を出すメリットは税金面だけではありません。開業届を出すことで、いざというときに国や地方自治体から支援を受けやすくなるという効果も期待できます。
2020年に起きた新型コロナウイルス感染症の際も、事業者向けの支援制度がいくつか設けられましたが、ここで、「開業しているのか」「事業所得があるのか」という点が重要な条件となっていました。
たとえば、個人事業主は最大100万円、法人は最大200万円を支給される「持続化給付金」や、販路開拓費用の一部を最大100万円補助してくれる「持続化補助金」、実質無金利で融資を受けられる「新型コロナウイルス特別貸付」といった制度を受けるには、開業届の写しや、事業所得のある確定申告書の写しを提出する必要がありました。
もし、開業届を出さず、雑所得として申告をしていたのなら、このような措置を受けられないということです。「本来は事業所得だったのに、間違えて雑所得で申告をしていた」と税務署に訴えても、税額が変わらなければ、申告のやり直しをすることもできません。
実は、コロナの持続化給付金については、制度ができてから数ヶ月後に、雑所得の人も一部例外的に認める取り扱いがなされました。ただ、これは例外中の例外です。また、持続化給付金以外の制度については、そのまま雑所得は認められない運用がされていました。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか? 思い出していただきたいのですが、雑所得は、他の所得に当てはまらない「その他の所得」という位置付けです。副業でお小遣い稼ぎをしている人も、臨時収入があった人も、すべて雑所得なので、国の立場からは「事業者」と認識されません。
事業者を救済することは、日本人の雇用を守り、経済を安定させることにつながります。ですから、国や地方自治体、日本政策金融公庫のような公的機関は、経済危機が起きれば救済措置を設けます。
開業届を出さず、雑所得のままでいると、こうした救済制度を受けられなくなる可能性が高く、これはとても大きなリスクだと思います。
ちなみに私自身の話をすると、2020年の3月から5月にかけて、コロナの影響で取材の仕事が減ったので売上が一時的に落ち込みました。
そのため、まずは日本政策金融公庫から融資を300万円、次に持続化補助金の枠を100万円分、持続化給付金を200万円受けました。これらの制度を受けることができたのは、僕がきちんと開業や法人設立、申告の手続きをしていたからです。
もし手続きをしていなければ、売上が減っても、支援制度を受けることができず、仕事を続けられなくなっていたかもしれません。
そのようなことにならないためにも、きちんと個人でビジネスをしているのであれば、きちんと開業手続きを行うことをお勧めします。これはビジネスを長続きさせる何よりの鉄則だと思います。
事業所得のデメリット(事業税)
ここまで説明してきたように、開業届を出し、事業所得にすれば多くのメリットがあります。ただし、ひとつ注意点があるので、最後にお話をしておきたいと思います。
地方税のひとつである「事業税」についてです。
事業税は、事業所得が300万円を超える人に課せられ、雑所得の人には課せられない税金です。ですから、この点だけを見ると、雑所得のほうが有利と言えるでしょう。
ただ、僕の考えでは、事業税はそこまで気にすることはありません。というのも、税額が課されるのは事業所得のうち290万円を超えた部分であり、その金額に税率がかかるという仕組みになっているからです。そして、税率は業種によって変わりますが、3〜5%となっています。
ということは、たとえば事業所得が500万円で、税率が5%と仮定しても、事業税は10万円くらいの計算になります。一方、事業所得にして、青色申告などの節税方法をとると、税金や社会保険が節約できて、これは明らかに事業税の負担を上回るので、やはり開業届を出したほうが得ということになります。
ちなみに、事業税は、確定申告をしていれば納税の案内が送付されるものです。個別に事業税の申告をする必要は、基本的にはないので、手間はかかりません。
事業所得のデメリット(確定申告の手間)
事業所得と雑所得を比べた場合、もうひとつデメリットとして考えられるのが、確定申告の手間です。
個人事業主の場合、基本的に1年に1度確定申告をすることになります。このとき、雑所得の人と、事業所得の人では、提出する書類に違いが出てきます。
まず雑所得の場合を見てみましょう。この場合、申告書の第1表に雑所得を書く欄がありますね。そして、この内訳は、第2表に書きます。この欄を見ていただければ分かりますが、とてもシンプルなものです。収入金額、つまり売上から必要経費を引いて、雑所得を算出するということですね。
次に事業所得を見てみます。第1表は、雑所得と変わりません。収入金額と所得を書くという感じですね。問題はここからです。事業所得の人は、確定申告書に、事業所得の内訳書というものを出さなくてはいけません。
ここには、収入だけでなく、必要経費の内訳などを書く必要があります。雑所得よりも細かく書かないといけないということですね。
ただ、これも大きなデメリットではありません。後のセクションで説明しますが、今はクラウド会計ソフトを使えば、内訳書も簡単に作ることができます。手間の差はそこまで大きくないので、節税などのメリットをすべて捨ててまで雑所得を選ぶことはないと思います。
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