「きちんと納品をしたのに、報酬が支払われない」
これは、フリーランスにとって一番怖い出来事です。実は僕も直面したことがあるのですが、下請法という法律のおかげで、泣き寝入りせずにすみました。
今回は、僕が遭遇した報酬未払いの経緯と、下請法のルール、そうした事故が起きたときの保険について紹介します。
「60万円」の報酬が支払われない
最初に、僕が経験した報酬の未払いについて経緯をお伝えします。2018年、ライターとして独立して1年経ったくらいの頃です。
その仕事は、ある方にインタビューをして、それを原稿にまとめて最終的に本にするという案件でした。事前に提示されていた報酬は、50万円+交通費等の実費でしたので、60万円くらいの収入を見込んでいました。
その後、取材も順調に進んで原稿が完成したので、出版社に送ったのですが、その後音沙汰がなかったのです。
その案件は、僕が原稿を書くとともに、その著者の方もご自身で書きたいという部分があったので、僕の原稿を元にその方が仕上げて出版するという流れになる予定でした。
そこで出版社の方とお話をしたところ、やはり著者の方の執筆が遅れ、出版の目処が立っていないとのこと……。書籍の仕事は、本が出て初めて報酬がもらえる世界ですから、不安になりました。
結局、その後1年が過ぎても、何も動きはありません。本来であれば契約にしたがって請求をするところなのですが、出版業界では契約書が事前に交わされることは稀で、今回も契約はしていませんでした。
「このまま泣き寝入りになるのか」と思いつつ、自分なりに調べたところ、「下請法」というルールを活用すれば、僕のようなケースが守られるということを知りました。
フリーランスを守ってくれる「下請法」
下請法とは、その名の通り下請け業者を守ってくれる法律です。
下請法の対象者
僕ら一般的な個人事業者のフリーランスの場合だと、取引先が資本金1,000千万円以上あれば下請法の対象になります。
資本金が1,000千万以上ある規模の会社とフリーランスを比べると、力関係に強弱がありますよね。だから弱い方を守りましょう、というのがこの下請法です。
下請法で禁止されていること
公正取引委員会のホームページを見ると、下請法で禁止されていることはいくつかあります。それが、まさにフリーランスに起こり得るようなことばかりなので、下の表にまとめました。
ちょっと難しい言葉もありますので、特にフリーランスに関係がありそうな項目を下に挙げてみます。
- 納品物を受け取らない
- 期日までに代金を支払わない
- 発注後に報酬を減額する
- 納品したものに問題があるわけではないのに返品する
- 代金をもらう前に、原材料などの先払いを強制する
4つ目の返品については、ライターである僕の場合は納品するものが原稿なので、ちょっと曖昧なところはありますね。ただ、適用されるケースはあると考えます。
例えば、「指示と違う原稿になっている」「基本的な品質を満たしていない」といった理由があれば別ですが、そういう事情もないのに納品物を返されたとなると、この下請法の話が出てくるでしょう。
下請法違反は公正取引委員会の窓口に相談
このように、下請法は、まさにフリーランスを守ってくれる法律です。これらに違反しているのではないか、ということがあれば、公正取引委員会の窓口に相談すると、相手側の会社に対して指導してくれるとのことです。もしくは弁護士に依頼して、請求するということも考えられます。
僕が経験した報酬未払いのその後
冒頭でお伝えした報酬未払いの後日談です。
下請法の予備知識を付けた上で、僕は先方に状況を確認しました。すると予想通り、その著者の方の原稿が完成しておらず、出版できる状況ではないことを知りました。
とはいえ、実際に原稿を作ったわけですから、このまま未払いを受け入れることはできません。まずはストレートに支払いをお願いしました。
すると先方から提示されたのが、「前払金として30万円を支払い、残りの20万円は出版できた場合に支払う」というもの。当初の条件とは違いますが、ひとまず僕は合意しました。
さらにその後、1年以上の月日が経っていますが連絡はありません。おそらく残りの20万円は支払われないでしょう。
ここで下請法の話を持ち出して、20万円を請求することも考えはしましたが、今回はこの話は終わりにしようと思っています。
というのも、本の仕事は1回原稿を作った後にも修正することがあるのですが、現状その追加作業は発生していません。それに、出版できていない以上、出版社としては30万円も丸損となっているはずです。
そういった事情を汲むと、今回は30万円という金額を受け入れることにしました。今回の事態に至った責任は本の著者の方にあるので、出版社から著者に対して損害賠償請求がなされるべき事案だと思いますが、僕は関知しません。
報酬トラブルの解決をサポートしてくれる保険
報酬の未払いは、期間が長くて金額が大きい仕事であればあるほど、発生する可能性があるものです。プロジェクトが大きいがゆえに最後まで完成せず、実現しないリスクがあるからです。
そうした事態に備えるための保険を見つけましたので、最後のご紹介します。
トラブル予防や発生時のアドバイス、弁護士費用を補償
一般社団法人フリーランス協会の会員向けサービスとして、「フリーガル」という保険があります。
フリーガルに加入すると、トラブルの予防や発生についてアドバイスを受けることができ、もし弁護士の対応が必要になった場合には、弁護士費用(上限あり)を支払ってくれるというものです。
このフリーガルには3つの保障プランがあり、1年間の保証額がそれぞれ50万円、120万円、200万円、年間保険料はそれぞれ5,000円、1万円、1万5千円となっています。
これだけの保障があれば、一般的なフリーランスの取引規模からすれば十分にカバーできると思います。
「報酬未払いは違法」というスタンスで交渉を
いずれにせよ、報酬未払いが起きた場合、まずは先方と交渉することになります。このときには、「報酬を支払わないことは違法なのだ」というスタンスで臨むのが大事です。
そのためにも、今回の記事で紹介した下請法の基本的なルールを抑えておいて頂ければと思います。詳しくは、本記事の最後に公正取引委員会のホームページへのリンクをつけていますので、そちらを御覧ください。
起こり得る未払いに備えて予備知識を付けておく
ということで今回は、報酬の未払いなどからフリーランスを守ってくれる下請法についてお伝えしました。
報酬の未払いは絶対に起きて欲しくないことですが、起きてしまう可能性はゼロではないので、事前に予備知識はつけておいた方がよいと思います。
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※本記事は執筆時点の情報に基づき掲載しています。制度のルールなどが変わる可能性がありますので、最新の情報をご確認ください。
【参考リンク】
・下請法(公正取引委員会ホームページ))
https://www.jftc.go.jp/shitauke/index.html
・公正取引委員会パンフレット「知って得する下請法」
https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/sittetokusuru.pdf
・フリーランス協会「フリーガル」
https://www.freelance-jp.org/pdf/flegal.pdf