2021年6月11日に、税務行政のデジタル化に関するロードマップが国税庁から発表されました。
テクノロジーの導入により、今まで面倒だった確定申告や申請手続きが簡単になる一方、これまで調査対象になりにくかったフリーランスや小規模事業者が対象になるかもしれません。
今回は、国税庁の発表を取り上げ、今後の税務行政がどのように変わっていくのかを説明します。
税務行政デジタル化の目的
国税庁から発表されたのは「税務行政のデジタルトランスフォーメーション ―税務行政の将来像2.0―」というタイトルの文書で、国税庁のホームページに掲載されています。
これには大きく2つの柱があって、「納税者の利便性の向上」と「課税徴収の効率化・高度化」が掲げられています。
納税者の利便性の向上
まずは、「納税者の利便性の向上」のカテゴリーから見ていきましょう。ここでは、税務署に行かずにできることを増やし、手続きを簡素化するための5つの構想があります。
確定申告が自動計算される
1つ目は確定申告です。
税務署に行かなくてもできるという点では、既にe-Taxがありますので、実現しています。
今後は、e-Taxの仕組みを進化させ、確定申告に必要な収入等の情報の入力が不要になり、税額も自動的に計算されるようになります。
自動計算が可能になるのは、会社から税務署に様々な情報が提出されるからです。たとえば、個人のお給料の情報は、源泉徴収という仕組みにより税務署に共有されています。
今後は、会社員の方であれば、e-Taxで確定申告をするときに、かなりの部分が自動化されていくのでしょう。
しかしフリーランスの場合は、個別に必要経費を計上していくので、税額まで自動計算になるのは難しいと予想しています。今後も、確定申告がフリーランスにとって面倒な作業であることは変わりません。
申請届出が数回のクリックで完結
2つ目は申請の届出です。
税務関係の手続きは色々ありますが、どの申請をすべきで、どう申請書を書けばいいのか分からないという方も多いのではないでしょうか。
それが、自分が申請できる特例がインターネット上に表示され、数回のクリックで完結できるようになります。マイナンバーを使うことで、氏名や住所などの情報が自動で取り込まれるので、入力も最小限で済みます。
ネット上で特例適用や滞納状況の確認
3つ目は自分が受けている特例や、税金の滞納状況の確認ができるようになることです。
例えば、いま自分は青色申告になっているのか、白色申告になっているのか。あるいは消費税の課税事業者なのか、簡易課税方式なのか、といったことがインターネットで確認できます。
AIに税務相談
4つ目がチャットボットによる税務相談です。チャットボットとは、簡単に言うと、質問に対してAIが自動応答するプログラムのことです。
これが実現すると、問い合わせのために税務署に行かなくて済みます。また、電話がつながるまで待たされるとか、メールの回答が来るまで待つ必要もありません。
ただ、込み入った相談については、おそらく引き続き税務職員がやらざるを得ないところもあるでしょう。僕が職員だった頃を思い返すと、簡単な質問が大半だったので、チャットボットが浸透すればかなりの事務量削減になりそうです。
税金のお得情報をプッシュ通知
最後の5つ目は、あなたは確定申告が必要ですよとか、こういう特例が使えますよということを、プッシュ型の情報配信でお知らせしてくれるというのです。
任意で使える節税方法は色々とあるので、納税者に有利な情報を積極的に流してもらえるのは、ありがたいですね。
課税・徴収の効率化・高度化
ここまでに紹介した5項目が実現すれば納税者は便利になり、税務職員としても相談や問合せに対応する時間が減るのは間違いありません。
では税務署が、その削減できた分の時間をどう使うのでというと、税務調査に力を入れることになります。ここからは、国税庁のデジタル化の2本柱のもうひとつとして、「課税・徴収の効率化・高度化」を深堀りします。
申告内容の自動チェック
たとえば会社から給料をもらっている人が、確定申告した場合を考えたとしましょう。これまでは、税務職員がその申告内容を、源泉徴収の情報などと目で照らし合わせて確認をしていました。
今後は、データベースと自動的に照合されます。人の目ではないので、これまで見逃されていたような誤りも把握されることになるでしょう。
AIデータ分析の活用
税務署はマイナンバーや税務調査を通じて、多くの情報を集めています。それらをデータベース化して分析し、過去のパターンから申告漏れの可能性が高い納税者の判定等を行います。
申告誤りや不正には色々なケースがありますが、結構パターン化されるものです。「こういう業種は、こういう経費のごまかしが多い」といった感じですね。
今まではベテラン職員の経験に頼っていたところが、これからは機械により行われるわけです。
情報照会のオンライン化
税務調査をする時は納税者本人に話を聞くだけでなく、銀行や証券会社から情報をもらうことがあります。
僕が職員だった頃は、照会のために署長の印鑑を押した書類を先方に送って、それをまた郵送で返してもらっていました。だから時間がかかっていたのですが、オンラインだとすぐに確認できますよね。
これからは税務職員が税務署にいながら、調査対象になった納税者の銀行口座の中身を調べられるようになるということです。
Webを使ったリモート調査
次に、Webを使ったリモート調査というのも出ていました。
税務調査は基本的に対面で行われるのですが、今後はWeb会議やリモート調査が実施されるかもしれません。
これは納税者としても便利なことだと思います。税務署が来るとなると、書類を準備しておくだけではなくて、会社や家を片づけないといけなかったりしますよね。リモート化されればそういった気を使わなくて済みます。
また、まとまった時間が取れなくても、一日の中で都合のつく時間に分けて対応するようなこともできるかもしれません。
デジタル化は順次行われる
ということで、今回は国税庁のデジタル化について、発表された文書の概要を説明しました。これらは一度に実現するのではなく、順次整えつつ2024年以降に形になっていく予定です。
正しく確定申告して納税する体制を整えておく
今回発表された国税庁文書に関し、今のところ、僕たちフリーランスが対応しておくべきことはありません。ただ、大まかな方向性を理解しておくことには意味があると思います。
これまでちゃんと確定申告して納税をしていた人にとっては、手続きが簡単になるので便利な時代が来ます。ただ一方で確定申告を適当にしていた人、あるいは納税を疎かにしていた人にとっては厳しい時代になるでしょう。
先ほどお伝えしたように、税務行政が効率化して浮いたリソースは税務調査に使われます。今後は税務調査の対象が広がって、これまでは対象にならなかったフリーランスとか小規模事業者についても、税務調査が行われる可能性が出てきます。
ですので、今のうちから正しく確定申告して納税するという体制を作るのが一番です。
このブログでは、主にフリーランスの方に向けて、仕事関係やお金関係、税金だけでなく、社会保険や老後資金なども幅広く情報を発信していきます。よろしければ「本ブログの更新通知を受け取る」に登録いただけると嬉しいです。
※本記事は執筆時点の情報に基づき掲載しています。制度のルールなどが変わる可能性がありますので、最新の情報をご確認ください。