こんにちはよしこばです。
今回のテーマは、相続税調査で必ず問題になる「名義預金」です。名義預金とは、夫が稼いだお金なのに妻や子供名義になっているような、所有者と名義人が違う預貯金のことです。税務職員が名義預金と判断するポイントや、そうならないための適切な対応について解説していきます。
こちらの内容はYouTube動画でも説明していますので、よろしければあわせてご覧ください。
家族のお金が「混ざる」と、名義預金に
名義預金の話が問題となるのは、相続が発生した時です。
銀行口座などが残された家族の名義になっていても、実際には亡くなった方の財産ではないか、と疑いが立つ可能性があります。もし名義人と実質的な所有者が違うということになれば、相続税の問題や、贈与税の問題に発展します。
この問題がなぜ起きるのかと言うと、家族は一緒に暮らしている以上、家計のお金はどうしても混ざりがちだからです。
例えば、夫が働いていて妻が専業主婦の場合、夫が稼いだお金を生活費として妻の口座に振り込むこともあるでしょう。また、夫婦で事業を行っている場合、売り上げの振り込みを、生活費を払う妻の口座にまとめていることがあるかもしれません。
このように、ごく当たり前に家庭で行われていることが、後々、相続税や贈与税の問題になる可能性があるのです。
相続税調査では家族名義の口座もチェックされる
僕も相続税調査に何度も行きましたが、預金は必ずチェックしていました。亡くなった被相続人の預貯金だけでなく、家族名義の口座も全部調べるのです。
ときどき、「私の預金口座は関係ないでしょう」と抵抗されるわけですが、それでも調べないわけにはいきません。通帳を見せてもらうか、見せてもらえなければ銀行に出向いてお金の動きを調査することになります。
そうしてお金の動きを見て、被相続人の財産かどうか、つまり名義預金かどうかを判断するわけですが、判断ポイントは複数存在します。
名義預金の判断ポイント
ではどうやって、名義預金かどうかを判断するのか。これはちょっと難しい問題で、名義が違っていたら必ず名義預金になるというわけではありません。
名義預金に当たるかどうかという点ついては、税務署と納税者の間でたびたび裁判になっています。その結果、今は最高裁の判例で判断のポイントが整理されました。
そのポイントとは、原資・管理・利益・経緯・関係の5つです。これらが総合的に判断されて、名義預金かどうかが決まります。この5つの条件をそれぞれ見ていきましょう。
原資は誰によるものか
「原資」というのは、誰が稼いだのかということです。例えば夫が亡くなった場合で、専業主婦の妻の名義で多額の預金があったとしたら、これは誰が稼いだお金なのかという話になります。もし夫が稼いだお金が妻の口座に入っているとしたら、名義預金となる可能性があります。
とくに、収入がないにも関わらず多額のお金を持っている人がいたら、要注意です。税務職員は確実に名義預金として目をつけます。
管理を誰がしていたか
次に、誰が「管理」をしていたかという点です。例えば子供や孫名義の預貯金があって、その通帳や印鑑などを管理していたのが親や祖父母だったとしたら、それは実質的には親や祖父母の財産だと見られます。
「利益」を享受したのは誰か
これには預貯金の利子だけではなく、投資信託の配当金等も含まれます。あまりあることではありませんが、子ども名義の証券口座から得た配当金を、親が何かに使っていたりすると、問題になります。
名義預金ができた「経緯」は
「経緯」も重要な調査項目です。そもそもなぜその口座を作ったのかという事実を聞かれます。未成年の子がたくさんのお金をもっていたら、「生前に贈与したもの」「アルバイトで稼いだもの」といったように、経緯を正しく説明できると良いでしょう。
最後は「関係」を見られる
これは名義人と所有者の関係を意味します。基本的に、他人同士で名義預金を作るケースはありません。子ども名義や妻名義など、問題になるのは、家族同士である場合が大半です。
名義預金は、たまたまそうなってしまうケースもありますが、意図的に相続税逃れとして利用される可能性もあります。相続の前に子供や孫に財産を移してしまえば、相続税の対象から外れるだろうという意図で名義預金が作られる可能性があるので、税務署は名義人と所有者の関係もチェックします。
名義預金の判断は総合的に
名義預金の判断ポイントは以上の5つです。この中のいくつ以上に当てはまれば名義預金になるとか、そういう話ではありません。税務署はこの5つの点で、実態を総合的に踏まえて判断します。
もしその判断に納得できない場合は、最終的には裁判で決着をつけることになります。裁判となると、証拠が重要になってきますので、5つのポイントに関連しそうな証拠は保管しておくようにしましょう。
名義預金と判断されないためにすること
最後に、名義預金と判断されないためにしておくことをお伝えします。
やることはシンプルで、家族のお金が混ざらないように、稼いだ人と預貯金の名義人を合わせることです。家族であっても、僕が稼いだお金は僕名義の口座に入れて、妻が稼いだお金であれば妻名義の口座に入れるのです。
避けるべき状況について具体的なイメージを持って頂くために、名義預金と判断されがちなケースを2つ紹介します。いずれもよくあることだと思いますので、そうならないように気を付けて頂ければと思います。
ケース①専業主婦のへそくり
例えば、夫が働いていて妻が専業主婦の場合。会社から夫の口座に振り込まれた給料を、生活費として奥さんに渡すケースはよくあるでしょう。
生活費は家族の誰が負担してもよいので、生活費として使う分には問題ありません。ただ残った生活費をへそくりとして貯めていると、名義預金と見られる可能性があります。
収入のない妻の名義の口座にお金が貯まっていると、夫の財産ではないかということで名義預金と判断され、夫が亡くなった時に相続税がかかります。もし「これは夫から貰ったものだ」と主張しても、贈与税がかかってくるので、どちらにしても税金かかるのです。
ケース②夫婦で事業をしていて、一方にしかお金が入らない
次に、夫婦で一緒に事業をしているケースです。生活費を支払っているのが妻だからといって、売上のすべてを妻名義の口座に入れてもらっていたというのも、名義預金になる可能性があります。
もちろん妻が仕事をした分のお金は妻の財産であって、名義預金にはなりません。ただし、全額が妻の財産だと主張するのは難しく、「旦那さんも仕事をしていましたよね?」という話になるでしょう。やはり、一方に全くお金が入らないという形は避けた方がよいです。
ではどうすればよいのかというと、まず主に稼いでいる人を決めることです。例えば、夫がメインで仕事をして妻がサポートしているような個人事業であれば、夫が個人事業主として開業する。そして、売上は夫名義の口座に全部入れて、その上で妻に給料を支払えば問題ありません。
ちなみに青色申告の人は、青色事業専従者給与の届出をしておけば、その給料は必要経費にできますから節税効果もあります。
このようにして正当に給料として受け取ったお金が、妻名義の財産として貯まっていく分には何も問題ありません。自分で稼いで自分で作った財産と認められますから、名義預金とか相続税、贈与税の問題は発生しないのです。
家庭内のお金の流れを整理しておく
ということで今回は名義預金の問題について解説しました。家の中のお金の流れはそれぞれの家庭によると思います。後から名義預金として税金の問題にならないように、今一度お金の流れを整理しておきましょう。
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※本記事は執筆時点の情報に基づき掲載しています。制度のルールなどが変わる可能性がありますので、最新の情報をご確認ください。
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