今回は自宅で仕事をしているフリーランスの方に向けて、家賃や水道光熱費、通信費などを「家事関連費」として必要経費に落とすための考え方をお伝えします。
実は、経費に計上できるからといって、すべてを計上した方がよいわけではない、ということもあります。そのあたりのことも理解して、判断するようにしましょう。
こちらの内容は動画でも説明していますので、よろしければあわせてご覧ください。
プライベートも兼ねる費用は家事関連費
まず家事関連費という言葉について、説明します。
国税庁のホームページには以下のように書かれています。
個人の業務においては一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわりがある費用(家事関連費といいます。)となるものがあります。
(例)交際費、接待費、地代、家賃、水道光熱費
この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。
このように、仕事用とプライベート用が混ざっている費用について、業務用に必要な部分に限っては、家事関連費として必要経費に入れることができると決められています。
法律で決まった計算ルールはない
ただ、どのように仕事用とプライベート用を分けるのか、具体的な計算方法について法律上のルールはなく、国税庁のホームページにも書かれていません。
それでも一般的な計算方法というのはいくつかありますので、この後にご紹介します。
理屈が通れば税務署も問題にしない
ちなみに、計算ルールがないことは、実は税務調査をする税務職員にとってもちょっと悩ましい問題なのです。
例えば家賃の50%を必要経費にしている方がいたとして、50%は高すぎませんかね、と言う法律的な根拠がないので、ある程度は交渉をすることになります。
ということは、家賃100%を経費にするような極端なケースではなく、実態に基づいた適切な計算根拠を元に算出された割合であれば、通常は税務署から見ても問題にはならないということです。
具体的な計算例
では、ここからいくつか計算方法の例を紹介していきます。繰り返しになりますが、計算方法には法律上のルールはありませんので、これらが絶対に正しくて、100%認められる方法というわけではありませんので、その点はご注意ください。
家賃
まずは家賃の計算方法について説明します。
賃貸で自宅を借りている方で、そこを仕事用に使っている場合、家賃の一部を必要経費に入れることが認められています。
具体的には、床面積の割合から、経費に計上する金額を算出することが一般的です。
例えば、全部で50平米のうち5平米を仕事用として使っている場合、家賃の10%を必要経費に入れるという考え方です。
ただ、床面積というのも、あくまでも参考でしかありません。
仕事で使っている部屋と言っても、完全に仕事用で、プライベートには一切使わないという場合もあるでしょうし、その部屋の半分が寝室で、半分は仕事用にデスクを置いているという場合もあるでしょう。また、一人暮らしでワンルームの方などは床面積では分けづらいですよね。
そのような場合は、その家で仕事をしている時間を基準にする方法も考えられます。例えば週7日間、毎日8時間仕事をしているのであれば、3分の1を必要経費として申請する、というような考え方です。
このように、何が正しいという話ではないのですが、ご自身が仕事で使っている場所の面積や時間を考慮して、割合を計算するようにしてください。
水道光熱費
電気代も実態に合った割合を考えなければいけません。
本当に細かくやるのであれば、電化製品の消費電力を調べるとか、スマートメーターみたいなもので、その部屋の電気代を調べるとういこともあるかもしれませんが、さすがにそこまでやっている方はほとんどいないでしょう。
そこでお勧めしたいのが、まずは感覚的に捉えてから、後から理屈を考えてみるという方法です。
僕の場合は、具体的に測ったわけではありませんが、だいたい使用電力の半分くらいは仕事に使っているかなというイメージです。
この記事にもリンクを貼っているYouTubeの撮影のための照明も使いますし、それ以外にも日中は部屋にこもって仕事することがほとんどです。その間、子供達は学校に行っていますし、妻は電気を多く使うようなことはないので、やはりこの部屋で使う電気が一番多いのかなと思います。
そう考えると、電気代の8割くらいを経費にしていいような気もしますが、休日にはそれほど仕事はしてないので、これらを踏まえて、仕事とプライベート、半々くらいであればそんなに違和感ないかと思い、半分を必要経費に入れています。
いずれにしても、業務にどれぐらいの電気を使っているのかを考えるところから始めればよいと思います。
ちなみに、水道やガスについては、僕はライターという仕事ですから、業務には関係ないと考え必要経費には入れていません。でも自宅で仕事をしている料理研究家の方や料理教室をされている方であれば、仕事に必要なものですから、ガス代や水道代の一定割合は入れても差し支えないでしょう。
通信費
電話代やインターネット代といった通信費も忘れず計上したいものです。通信費もおおむね半分くらいであれば、問題ないのかなと思います。
今は以前よりも割合を算出することが難しくなりました。昔は電話やインターネットは従量課金だったので、取引先に電話をかけた時間はこのくらいだから、その分は必要経費に入れようと考えることができました。
しかし今は、電話代はかけ放題の定額制が多く、通信費も1~3ギガでいくら、3~5ギガでいくら等の使用量の範囲による料金設定だったりするので、なかなかそれを細かく分けるのは難しいように思います。
これもご自身の仕事の実態に合わせて、インターネットを使うのは仕事がメインだとか、プライベートではほとんど電話はかけない、ということであれば、通信費の80%とか90%を経費に入れることもあるかもしれません。
必要経費にできないもの
ここからは、家事関連費を必要経費に計上する際に、注意しておきたいポイントを説明します。一見必要経費にできそうなものでも、税務署の視点ではNGとなるケースがあります。
賃貸の場合、敷金は経費にならない
少し意外だと思われるかもしれませんが、賃貸物件を借りるときにかかる敷金は経費に計上できません。
賃貸の方が家を借りる時に支払う敷金はとくに誤りが多いポイントです。支払っているので必要経費にしそうになりますが、敷金は通常、後から戻ってくるものですから、必要経費に計上することはできません。
持ち家の場合、住宅ローンの元本部分の返済は経費にならない
持ち家の方は住宅ローンを組む方が多いと思いますが、毎月返済している住宅ローンの元本部分は必要経費に入れることはできません。
なお、住宅ローン返済額のうち、金利については必要経費に入れることができるのですが、賃貸の場合の家賃と同じように、床面積や使用時間の割合等に応じて金額を計算するので、費用に計上できる額は大きくないと思います。
例えば、住宅ローンとして利息込みで10万円払っていて、そのうち元本分が8万円だったとしたらその8万円は必要経費に入れることはできず、利息の2万円のうち業務用に該当する金額のみ、経費として計上できるのです。
持ち家の方からすると、借りている時の家賃を払うのも、住宅ローンを返すのも同じ住居費だろうと思われるかもしれないのですが、住宅ローンの元本は、取得した資産の代金に該当するため経費にはならないのです。ここは扱いが明確に違うところなので注意してください。
減税等の特例への影響
持ち家の方は、もう一つ注意しないといけないことがあります。住宅ローン控除を使ったり、将来その家を売却したりする場合に、家事関連費を必要経費に入れていることで、かえって損をしてしまうこともあるということです。
住宅ローン控除の一部が減ってしまうことも
住宅ローン控除は、住宅ローン減税とも言うもので、年末時点で残っている住宅ローン残高の1%分の減税を受けられるという制度ですが、自宅の一部を事業所にしていると、その事業所分については住宅ローン控除の対象から外れてしまいます。
例えば、住宅ローン控除で20万円分の減税を受けられるとしても、自宅の半分を事業用に使っていたのであれば、住宅ローン控除の金額も半分の10万円になってしまいます。
50%以上を事業用とすると住宅ローン控除がゼロになる
さらに住宅ローン控除を受けるためには、自宅のうち50%以上を居住用に使っていないといけないというルールがあります。そのため、事業用の割合を50%以上にしてしまうと、住宅ローン控除がゼロになってしまいます。
必要経費を入れるという観点からは、事業用の割合を増やした方がよいのですが、住宅ローン控除が減ってしまったり、全く使えなくなってしまったりするという大きなデメリットがありますので、慎重に検討する必要があります。
売却時の特例が使えなくなることもある
あともう一つ、将来その家を売ろうと考えている方も注意が必要です。
居住用の物件は、売却した時に税金に関する特例が受けられます。例えば、売却損が出た時に他の収入との合算によって減税されるなどの有利な制度があるのですが、これは居住用の物件にしか使えないので、自宅の一部を事業所にしていた場合は、こういった特例が使えなくなってしまうこともあります。
居住割合90%以上であれば、100%とみなされる
住宅ローン控除も減ってしまうし、売却時の特例も受けられなくなるなら、家事関連費を計上しない方がよいのでは、と思われる方もいるかもしれません。
しかし、住宅ローン控除については居住割合が90%以上であれば100%とみなす、というルールがあります。つまり事業用に使っている部分が10%を下回るようであれば、住宅ローン控除を全額受けられるのです。このあたりもぜひ知っておいて頂きたいところです。
使える制度を知って適切かつ慎重に必要経費の計上を行う。
ということで、自宅で仕事をされているフリーランスの方に向けて、必要経費の基本的な考え方について説明してきました。
お伝えしたように、必要経費の計算方法について法律上のルールはありません。皆さんの事業の実態に応じた割合を計算して必要経費として計上することになります。
注意する点としては、必要経費として入れられないものがあることや、必要経費に計上したことで住宅ローン控除をはじめとする減税措置を受けられなくなる可能性があるということです。
経費計上でも、税金に関する特例でも、ご自身が使える可能性のある制度について理解して、適切かつ慎重に必要経費の計上を行っていきましょう。
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※本記事は執筆時点の情報に基づき掲載しています。制度のルールなどが変わる可能性がありますので、最新の情報をご確認ください。
【参考リンク】
・国税庁ホームページ(やさしい必要経費の知識)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm