今回は令和3年度確定申告の変更点について解説します。
今年の変更で目立つのは、「確定申告が便利になっている」ということです。e-Taxが以前よりスムーズになり、AIによるチャットボットの税務相談もはじめています。
こちらの内容はYouTube動画でも説明していますので、よろしければあわせてご覧ください。
雑所得は特定の所得区分に該当しないもの
雑所得の説明をする前に、簡単に所得の区分についてお伝えします。
所得税や住民税の計算は、所得区分に応じて異なります。ですから、この区分は正しく記入する必要があります。
所得区分にはサラリーマンの給与所得、フリーランスの事業所得、株や投資信託などから得られる配当所得があります。他にもいくつかありますが、特定のものに当てはまらない「その他の所得」をカバーしているのが雑所得です。
雑所得の区分が2つから3つに
このように雑所得については、中身はさまざまです。副業収入もあれば、保険金や年金など、すべて雑所得に該当します。
ただ、確定申告を行うときは、雑所得の中身によって区分が設けられています。この区分が、昨年までは「公的年金等」「その他の雑所得」の2つでした。それが今回から「業務」が追加されて3つになっています。
「公的年金等」に変更はありません。昨年までと同様に国民年金や厚生年金などをここに入れます。
今回変わったのは「その他の雑所得」です。昨年までは「公的年金等」に入るもの以外はすべてこの区分でした。今回の確定申告からは、「暗号資産取引による所得」が「その他の雑所得」にあたります。
では、年金でも暗号資産取引でもないものはどうすればいいのでしょうか。これは、新設された「業務」という区分に入れます。たとえば原稿料やフリーマーケットでの転売、講演料といった副業で受け取った収入など、よくわからないものは「業務」に入れましょう。
暗号資産取引は「その他の雑所得」、それ以外は「業務」と考えるとわかりやすいかと思います。
暗号資産専用区分ができて税務調査が本格化する可能性
ちなみに、この変更よる税金への影響はありません。どの区分で申告しても雑所得は雑所得です。
では一体何のためかというと…。おそらくは税務調査の時の判断基準にするためだと思います。税務調査では金額の推移がポイントになります。所得が急に増えたとして、それが暗号資産で稼いだのか副業なのかが分かってくると、税務調査の精度が上がりますからね。
暗号資産だけの区分が設けられた背景を考えると、これから暗号資産取引への税務調査が本格化すること示唆しているのかもしれません。
便利なチャットボットの無料税務相談が開始
税務職員に代わってAIが相談に答えてくれるサービスが始まりました。テキストで打ち込んだ質問に対してAIが情報を出してくれます。時代は変わりましたね。土日や夜間でも無料で使えるのが便利です。
チャットボットの使い方
では肝心の使い方を説明しましょう。国税庁のホームページの中に、チャットボット(ふたば)に質問するという欄があります。この「チャットボット(ふたば)に相談する」をクリックすると、税務相談チャットボットというウィンドウが開きます。
ちなみに現在はチャットボットには利用可能期間が設けられているようです。所得税の確定申告については今年の1月11日から開始しています。
チャットボットの開始ボタンを押すと注意事項が出てくるので、それを確認したら「はじめる」をクリックします。
次の画面では表示されたカテゴリから質問を選ぶこともできれば、直接打ち込むこともできます。たとえば「申告期限を教えて」と入力、送信してみましょうか。
このように、確定申告の期間とか忘れていた場合とか、期限に関連する項目が出てきました。
このなかから、自分の知りたい情報を選んでみましょう。たとえば「1.確定申告の期間(期限)」をクリックすると、「令和3年分所得税の確定申告の期間は、令和4年2月16日(火)から同年3月15日(火)までです」という情報が出てきました。補足説明もあります。
このように簡単な質問であれば十分な回答がもらえると思います。
チャットボットで解決できなければ電話や窓口で相談
税務署の電話ってつながりにくいこともありますよね。僕も税務職員だった頃に、こういう相談対応もやっていたのですが、ひっきりなしに電話がかかってきたものです。
込み入った質問は職員でないと答えられないものもありますが、申告期限などの基本的な情報は国税庁のホームページで確認できます。
ただ残念ながら国税庁のホームページってけっこうわかりにくいですよね。だから税務署にも多くの問い合わせが来てしまうのです。
このチャットボットを使えば、国税庁のホームページで調べるよりも早く結論を調べられます。窓口と違って、土日も時間も関係なく問い合わせができるのも便利ですよね。
だからまずチャットボットに相談して、それでも解決できなければ電話や窓口で相談するのがよいかなと思います。
e-Taxとマイナポータルを連携するメリット
3点目はマイナポータルと国税庁のe-Taxを繋げて確定申告すると、入力不要になる項目があるという話です。
ふるさと納税や生命保険料控除などの入力が不要
マイナポータルとは政府が運営するサイトで、マイナンバーカードと紐づいて個人の情報が集約されることで、行政手続のオンライン申請ができるようになっています。
この連携することのメリットは、ふるさと納税や生命保険料控除などの入力が不要になることです。
たとえばふるさと納税。今までは、寄付先ごとに発行される証明書を見ながら、一件ずつ入力しなければいけませんでした。これって結構煩わしいですよね。
実は各自治体に寄付した情報はマイナポータル上に取り込まれているので、e-Taxと連携すればいちいち入力する必要がなくなるのです。
他にも保険料の控除証明書とか住宅ローンの年末残高証明書、株取引の年間取引報告書なども対象です。今年から地震保険も自動入力されるようになりました。
自動入力のメリットはインプットの手間が減ることだけではありません。
証明書を見ながら入力すると間違えてしまう可能性もありますよね。また証明書を紛失してしまったら、受けられるはずだった控除を受けられずに税金が高くなってしまいます。
こうした入力ミスや漏れがなくなるのも、マイナポータルと連携する大きなメリットだと思います。
スマホでマイナンバーカードの読み取りが可能に
e-Taxを利用するには、原則としてマイナンバーカードの読み取りが必要です。このマイナンバーカードの読み取りがICカードリーダーではなくてスマホでできるようになりました。しかも、行政手続きと相性の悪いiPhoneでも大丈夫です。
e-Taxには前回の記事で紹介した青色申告の節税メリットもあるので、僕はe-Taxをお勧めしています。
ですが、これまではICカードリーダーでマイナンバーカードがなかなか読み取れないという問題がありました。そこで挫折した方もいると思います。僕も去年カード読み取りエラーが何度も出て苦労しました。
それが今回からスマホでできるというのは嬉しいですね。
もしご自身のスマホが読み取りに対応していなくてICカードリーダーを使われる場合には、昨年まとめた読み取りエラーの原因と対処法の記事も参照していただけたらと思います。
スマホe-Taxの範囲が拡大。ただし事業所得には未対応
スマホでできることは他にも増えています。
さきほど説明したのは、パソコンのe-Taxを使うとき、マイナンバーカードの認証にスマホを使うということでしたね。今は、パソコンがなくても、スマホだけでマイナンバーカードの認証から、申告データの送信まで可能となっています。
スマホ申告の対応範囲
ただし、あらゆる申告に対応しているわけではありません。
国税庁はスマホ申告の対象範囲を公開しています。それによると、今回の確定申告から新たに対応可能となったのは株関係です。上場株式の譲渡所得や配当、譲渡損失をスマホで確定申告できます。このほか外国税額控除も追加されました。
ただ、残念ながら事業所得については、スマホ申告はまだ対応していません。なので、引き続きパソコンを使ってe-Tax申告をする必要があります。事業所得も早くスマホ申告の対象になることを期待しています。
スマホ申告では源泉徴収票の情報を写真で取り込める
さらに、スマホ申告の機能にも追加がありました。
源泉徴収票をスマホで撮影すると、その情報を読み取れるようになっています。細かいことかもしれませんが、これも便利になった点のひとつです。
便利なツールを使って少しでも早く正しく確定申告を
ということで今回の記事は以上になります。
確定申告が面倒だというのは、元税務職員の僕も実感しています。これは制度上仕方のないことだと思っています。
でも、今回の変更を見ていて、少しでも便利にしようとしている国税庁の意気込みを感じました。ぜひこういうツールも活用して少しでも早く確定申告を終わらせたいですよね。
今後も引き続き、確定申告に役立つテーマを取り上げて解説していきます。よろしければ「本ブログの更新通知を受け取る」に登録いただけると嬉しいです。
※本記事は執筆時点の情報に基づき掲載しています。制度のルールなどが変わる可能性がありますので、最新の情報をご確認ください。
[参考リンク]
・【Mac PC】国税庁e-Taxシステムエラーの原因と対処法