事業資金に困った時に頼るのは補助金か融資か。多くの方は、返す必要のない補助金の方がいいと思うかもしれません。でも僕は補助金を受けて後悔したことがあります。今回の記事では、人間の心理から補助金と融資を比較したいと思います。
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持続化補助金を受けて経験したリスク
「補助金のリスク」という記事を以前書いたことがあります。この記事は、僕が小規模事業者持続化補助金を受けて実際に感じた点を紹介したものです。
この記事の内容を簡単にお伝えすると、次の3点において補助金にはリスクがあります。
- 申請の準備や審査に時間がかかる
- 申請した計画通りに実行できなければ支給されない
- 計画通りに実行しても、事後審査により満額支給されない
僕の場合、申請段階ではで約100万円が支給される予定でした。しかし実際に受け取ったのは約30万円。その理由は後ほど説明しますが、期待していた金額を受け取れませんでした。
補助金が心理に与える影響を考えさせられた本
僕は人間の心理面から、補助金をうまく使うのは難しいと考えています。その理由を、『いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』という本と絡めて説明したいと思います。
この本は、タイトルのとおり「時間」をテーマにした本です。でも、読んでみると、お金との付き合い方にも重なる気づきがたくさんありました。
ちなみにサブタイトルにある「行動経済学」は、経済学に心理学的な視点を加えた学問です。一般的な経済学では、人間は合理的な意思決定に基づいて行動すると考えます。でも、感情に従って行動することもありますよね。いつも必ず合理的に判断をしているのではないところも考えるのが行動経済学です。
本書では自分の持つものが十分ではないと思っている状況を「欠乏」としています。実際に不足しているかどうかは関係ありません。とにかく本人が感じるなら、紛れもなく「欠乏」です。
この欠乏の心理は人の行動に影響します。時間がないと思っている人ほど忙しくなっていく。逆に余裕のある人は、さらに時間に余裕が持てるようになる。
これを時間をお金に置き換えてみると、僕が言いたいことになります。お金が足りないと思っている人ほど貧困に陥りやすい。そして、お金持ちほどさらに豊かになると。
人の行動に影響する2つの心理作用
この本から、補助金に影響される心理に当てはまると思う2つのポイントを紹介します。欠乏を起こすと視野が狭くなるという「トンネリング」。そして、余裕があると無駄遣いが増えるという「スラック」です。
欠乏すると視野が狭くなる「トンネリング」
まず「トンネリング」について説明しますね。これはトンネルからきている言葉です。トンネルに入ると見えるのは出口の先だけで、周りの風景は見えません。このように意識が一点に集中することをトンネリングと言います。
欠乏を起こすと、とにかくそこだけに意識が向いてしまいがち。お腹が空いていたら食べ物のことばかり考える。お金が足りなければお金のことばかり考えてしまう、というのは想像できますよね。
トンネリングは、必ずしも悪いことばかりではありません。たとえば僕の場合、締切りが近くなると、時間が欠乏していると感じ、より仕事に集中できます。
いっぽう、悪い面としては、目の前のこと以外は見えなくなってしまうことです。この本では、トンネリングが起きると、目の前のこと以外に対する処理能力や判断能力が低下すると書かれています。
お金がない時はお金のことばかりを考えますよね。だから健康に意識が向かず、節約のために毎日カップラーメンといったことになりがちです。あるいは体調不良になっても、お金がないと病院に行こうと思わないかもしれません。
冷静に考えると、体調が悪いなら早いうちに病院に行っていた方がいいですよね。回復に時間がかかれば仕事をできず収入が減り、医療費も増えます。
補助金のトンネリング
補助金は、このトンネリング効果を起こしやすい構造になっています。また、補助金の使いみちは限定されていて、あらかじめ計画書を出して採択されたものだけが対象となるからです。
たとえば僕が受けた持続化補助金。これは「販路開拓の費用」でなければいけなかったので、それに沿った計画を作りました。実施期間も決まっていて、約1年の間に支払ったものだけが補助金の対象になります。
そうなると、その1年間は計画に縛られてしまいます。ですから、補助金のために、他の可能性をあえて見ないようにしてしまう。これがトンネリング状態です。将来的な視点で考えると、それは果たして得なのか。なかなか難しいところですよね。
ビジネスの状況は日々変わっていきます。当初予定していたのとは別のことをやった方がいい場合もあります。でも計画を変えてしまうと、補助金はもらえない。だから、他の可能性には目を瞑らざるを得なくなります。
さらに、実施後に報告を出して補助金が支払われるまでにも、トンネリングが起こります。審査から支給まで数か月かかります。しかも、不備を指摘された場合、これに対応できないと無支給ということもありえます。
この待っている時間は精神的なエネルギーを吸い取られてしまいます。補助金の心配するあまり自分の処理能力が下がってしまうとしたら、これはあまりいい状態ではありませんよね。次の新しい仕事に集中した方がいいに決まっています。
余裕があると無駄遣いする「スラック」
次のキーワードは「スラック」です。スラックというと、コミュニケーションツールを思い出される方もいらっしゃるかもしれません。でもそれではなくて、「緩み」とか「たるみ」を意味する言葉だそうです。
この本では、スーツケースのパッキングの例がありました。荷物がびっしり詰まったスーツケースは、それ以上のものは入りません。今入っている物だけでも、場所を変えたりすると入らなくなる可能性もあります。
もし余裕があれば他の物も入れられるし、どんな入れ方をしても入りますよね。持ち物や詰め方の選択肢が増えるのです。「これ以上入らない」「この詰め方でないとダメ」というプレッシャーはありません。この精神的な違いは大きい。
これをお金に当てはめてみましょう。ある程度余裕があれば、ビジネスの選択肢が増えます。新しいビジネスにチャレンジしやすいですし、節約のために行動を制限されることもありません。
ただ一方で、余裕があると無駄遣いしてしまうこともあるでしょう。僕も反省することがあります。フリーランスになると収入も時間も不安定です。時間やお金がある時は、無駄な使い方をしてしまいがち。普通だったら買わないと思うものを買ってしまったり、ついダラダラしてやるべきことを後回しにしてしまったり。
本書では、数十年にわたる研究の結果として、人間は順調な時には楽観主義に陥ってしまうものだと説明しています。スラックを放置していたら、無駄遣いが増えてしまうというのです。そして無駄遣いが増えると、やがて欠乏状態に陥ります。
補助金のスラック
補助金で起こるスラックとはどういう状態か。これも僕が実際に感じたことです。最大で100万円ぐらい支給されるという通知を受けました。その時点ではまだ1円も入ってもいないのに、もらった気になってしまったのです。
普段だったら、吟味してコストパフォーマンスがいいものを買おうとします。ところが100万円もらえると意識すると、つい無駄遣いが増えてしまいます。
会社で複数の人が判断に関わっていればまだしも、僕みたいに一人でやっていると誰も止めてくれません。補助金を得たことで無駄遣いが増えたとすると、結果的に得なのかどうか疑問ですよね。
どちらか選べるなら融資の方がいい
ここまで紹介した「補助金」の問題点を踏まえ、融資と比較してみましょう。
縛りが少ないのは融資
融資の場合、申請すれば数週間程度で、申請どおりの資金を借りられます。このことにより余裕を持て、新しいことにチャレンジしやすくなります。つまり、スラックのポジティブな効果です。
それに融資を受けたお金は、ある程度自由に使えます。運転資金か設備投資かの大まかな区分はありますが、補助金のように使用目的が厳しく制限されてはいません。ということは、状況に応じて効果的なお金の使い方ができるということです。
たとえば、もともと教育事業のために100万円を借りたとします。ところが途中でオンラインビジネスの方がいいと思ったら、それに使ってもいい。このようにトンネリングが起きにくいのです。
返済のプレッシャーをポジティブに考える
そして、融資は将来的に利子をつけて返さなければいけません。そのことを意識すれば、必要以上に気持ちが緩まず無駄遣いを避けられます。
補助金と融資、僕がどちらか一方を選ぶとしたら融資です。融資を受けたら、売上を増やして利益を出して返済していく。そのために一番いいビジネスを考える。とてもシンプルです。
ただ、僕は補助金を完全否定しているわけではありません。補助金を申請する際には、心理的によくない影響がある可能性を理解しておく。その上で、上手に活用するのがいいと思います。
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