前回に続きインボイス制度の解説です。10月1日にスタートしましたが、まだ「登録しなくて良かったのだろうか」と不安を感じる人は多いはず。今回は受注側を保護するしくみや、今やるべき対策をお伝えします。
インボイス制度の解説がマンガに!
最初に告知です。
このたび、税務研究会様からのご依頼で、僕がインボイス制度を解説した内容がマンガになりました。マンガを書いてくださったのは、インスタフォロワー20万人を誇るミツコ先生です!
こちらのサイトから無料で読めますので、ぜひ見てみてください。内容は全6話で、順次公開されます。
https://www.zeiken.co.jp/lp/invoice2309/
受注側を保護するしくみ
それではここからインボイス制度の解説を続けます。
前回の記事で書いたとおり、インボイス制度の登録を僕は見送ることにしました。その理由のひとつに、受注側を保護するしくみがある点があります。
インボイス制度の仕組み上、免税事業者と取引をする発注側の税負担が増えかねません。でも、だからといって免税事業者に対して支払う報酬を強制的に減額したり、取引をいきなり打ち切ったりすることができないルールになっています。
たとえば、あらかじめ報酬11万円で契約をしたのに、あとからインボイス登録していない相手に対して、「消費税は払わないから今回の報酬は10万円」と主張することはできません。
このような法令違反はすでに起きているようで、公正取引委員会が注意喚起を行っています。イラスト制作業者や人材派遣業者などが、インボイス登録のない人に対して報酬を引き下げると通告したことに対して指導がなされたかっこうです。
大手はインボイス対応ができている
下請法などの問題を起こさないようにするため、発注側は気をつける必要があります。大手はそのような配慮ができていて、たとえばコクヨはこのような情報をホームページに載せています。
読んでいただくとわかりますが、コクヨはインボイス登録の有無を理由とした取引停止や報酬減額を行わないスタンスを明確にしています。
このような大手企業との取引が多いのであれば、当面はインボイスに登録しなくても影響は限定的だと思われます。
問題はインボイス制度への対応が後手後手になっている中小企業です。下請法などのルールを理解していないことが想定されるので、僕たち受注側は自衛のために知識をつけておく必要があります。
当面影響が大きいのは資金力のない中小企業
インボイス制度の影響を誰が一番受けるのかを考えてみましょう。僕の予想では受注側のフリーランスではありません。おそらくは発注側、それも資金力のない中小企業への影響が大きいと考えています。
報道を見ると個人事業主の免税事業者でインボイス登録をしてるのは全体の15%ほどにとどまります。やっぱりまだまだ登録する人が少ない。
という状況を踏まえると、発注側もその状況を飲まざるを得ません。ましてや下請法や独占禁止法がありますから、これまで通り免税事業者であっても消費税をプラスして支払うしかありません。
受注側による取引先の選別が始まる
僕自身、出版社などに対してインボイス登録を見送ることは伝えています。でもだからといって報酬を減らされたり、仕事を止められたりはしていません。今のところですが。
そのような状況になっているのは、僕の取引先の多くが大手企業であり、それなりに資金力があるからでしょう。
でも資金力のない中小企業は、やはりインボイス登録のある人と優先的に取引をしたいと思うはずです。経過措置はありますが、そのための経理作業が煩雑であることからも、簡単な話ではありません。
大手は免税事業者と引き続き取引して、中小企業は免税事業者との取引を控えたい。そうすると、受注側としても大手との取引を優先させたいという気持ちが働きます。
ビジネスは発注者から受注者への一方向ではなく、双方が選別を行うものです。ですから、「自分が選ばれるように」という意識はさることながら、「よりよい取引先を選ぼう」というマインドも大切ですね。
最後に値上げ交渉すべし
消費税なしでも食べていけるように
インボイス制度への現実的な対策として、今やらなければならないのは「値上げ」です。
今後、インボイス制度がどのような影響をおよぼすかは未知数です。ですが、いまのうちに値上げをして、「消費税分がなくなっても食べていける」という状態にしておきましょう。
僕自身、去年頃から取引先に対して10%程度の値上げをお願いしています。連載記事の単価を上げてもらったり、新規の依頼に対して以前の相場の10%割り増しで提示したりしています。
どちらを選ぶのも経営戦略
先日ある税理士の方にお会いしたときの話です。「インボイス制度に登録するかを自分で判断できる人でなければ、今後フリーランスを続けるのは難しい」と言われました。
これはたしかにそうかもしれません。
僕らフリーランスは、普段からリスクとリターンを考えて行動する必要があります。
自分がかけている時間に対して見合った報酬を得られるのか
この取引先を選ぶべきか、それとも別の取引先を選ぶべきか
この事業をやるべきかどうか
そのような判断を常に迫られていて、インボイス制度への対応もそうした意思決定のひとつといえます。
記事でお伝えしたとおり、インボイス登録することにもリスクがあるし、登録しないことにもリスクがあります。そのどちらのリスクを取るのかというのは、自分で答えを出すしかありません。
もしも、「よくわからないから放っておこう」あるいは「なんとなく恐いから登録しておこう」などとやっていると、いずれ想定していなかったリスクに直面して大きなダメージになるかもしれません。
僕のブログやYouTubeを見てくださっている皆さんは、自分で情報を取ろうとされている方なので大丈夫だと思っていますが。
とにかく自分で情報を取って判断する姿勢が大事です。そのために僕の出す本などのコンテンツがお役に立てれば何よりです。