事実とは何か?
事実とは、「証拠に基づき否定できない真実」を指します。たとえばこのような言葉は、事実に当てはまります。
- 地球は太陽の周りを回っている
- 日本の首都は東京である
- 水の沸点は100℃である
こうした事実は、調査、研究、観察などを通じて得られた結果であり、データや統計などの形で証明できます。100%ではないにしても、99.99…%は正しいと言える情報については「事実」という扱いになります。
主張とは何か?
一方、主張とは、個人の感情や、見解、解釈など、自己の視点に基づく意見や感覚を指します。主張は事実に基づくものもあれば、単なる思い込みに基づくものもあります。たとえばこのようなものが主張です。
- 私はクレープが好きだ
- クレープはおいしい
- この映画は最高だった
主張はあくまでも個人の一意見ですから、反対意見が成り立ちます。クレープが好きな人がいれば、嫌いな人もいますよね。後ほどライティングにおける書き分け方を、ひとまずは事実と主張の微妙な違いを感じてください。
主観的な記述は個人の感情や考えを反映したもので、その人だけの見解を表します。一方、客観的な記述は個人の感情を排除し、事実に基づいて語る方法です。これらの違いをしっかりと理解することから始めましょう。
なぜ事実と主張を判別しなくてはいけないのか
僕がライターデビューをして間もなく、企業案件が収入の支えとなりました。未経験ライターでありながら、継続的に企業から受注を受けられた大きな理由は、僕が事実と主張を書き分けられたからだと考えています。
企業が求める記事は、「読者の目を引くこと」以前に、「変な誤解を与えないこと」が重視されます。つまり、事実と個人の考えを書き分けて、誤解のない文章を書くことができれば、それだけで他のライターよりも抜きん出ることができます。
弁護士から学んだ文章の書き分け方
なぜ僕が書き分けられたかというと、前職の経験が影響しています。僕が東京国税局を退職するまでの3年間は、東京国税不服審判所という組織で勤務していました。不服審判所というのは、「税金版の裁判所」と考えてもらうとイメージしやすいと思います。
不服審判所には僕のような国税出身者だけでなく、弁護士などの民間出身者も一緒に仕事をします。僕は法律のプロである弁護士の方と仕事をし、文章のアドバイスを受けたことで、事実と主張の使い分けが極めて重要であることを学びました。
国税不服審判所では、国税の処分に不服のある納税者が行う審査請求に対して、裁決書という文書で判断を示します。この裁決書は、基本的に次のような順序で記載されます(実際の文面はこちらからご覧ください)。
- 関係法令
- 争いのない事実
- 争点
- 争点に対する双方の主張
- 判断経緯
- 結論
このような順序になっているのは、きちんと情報を整理しないと、最後の結論が間違ったものになってしまうから。とくにポイントになるのが、やはり事実と主張をまぜこぜにしないことです。
たとえば「A氏は売上金を500万円隠した」という情報はどうでしょうか? 一見すると事実のように思えますが、そうとはすぐに判断できません。国税側が「A氏は売上金を500万円隠した」と判断したとしても、A氏は「売上金500万円は隠したものではない」と主張したなら、やはり検証が必要です。国税側の主張を事実として認定するには、たとえば通帳や売上台帳など、証拠から結論を導き出す必要があるのです。
読者に違和感を抱かせない文章を書く
それでは、ライターとして記事を書くとき、具体的にどうすればいいのでしょうか?
まずは文章を書くときに、常に「これって事実かな?」という感覚をもっておくことが大事です。
たとえば「この夏は過去最高に暑い」という文章に対して、何も違和感を覚えないのであれば、注意が必要です。
もしもこの文章を事実として書くのだとしたら、地球誕生以来の温度変化を調べなくてはいけません。こういう「過去最高」とか「史上初」のような表現は目を引きやすいので使いたくなりますが、本当にそう言えるのかを冷静に判断することが大事です。
現実的な対処法としては、「私はこの夏は過去最高に暑いと感じた」「今年の夏は史上最高と思えるくらい暑い」といった表現に変えることが有効です。つまり、「誰が、どのように感じた」といった書き方であれば、何も問題ありません。
事実だけの文章はつまらない
記事を書くうえで意識したいのは、「事実と主張のバランスを取る」ということです。
事実だけが書かれた文章は面白くありません。役所の出す情報がつまらないのは、事実だけが淡々と述べられているからです。
一方、客観性を欠いた主張だけの文章も問題です。芸能人のブログであれば別ですが、普通は個人の考えだけが書かれた情報は読み手にとってあまり価値がありません。
読者に喜ばれる記事は、「事実を紹介しつつ、それに対する書き手の主観」を書いたものだと思っています。以下は一例ですが、主観的な文章と客観的な文章を織り交ぜることを意識しましょう。
<主観的な文章の例>
「最近の暑さは私にとって耐え難いものだった。この夏は過去最高に暑いと感じ、アイスクリームが欠かせない毎日であった。」
<客観的な文章の例>
「今年の夏は平均気温が30度を超える日が多く、地域によっては過去最高の気温が記録された。特に都市部では、連日の猛暑警報が発令された。
まとめ
ライティングをするときは、記事の目的や対象読者に応じて、主観的な表現や客観的な表現を使い分けることが重要です。事実だけを並べても読者は感情的な結びつきを感じません。逆に、主観だけでは説得力を欠くことがあります。ですから、情報を伝えつつも、主観を用いてその情報に色を付けることが大切です。
事実と主張の使い分けは、あなたのライティングの評価を大いに左右します。これは練習を積むことで身につくスキルなので、積極的に文章を書いて練習しましょう。